話は前後してしまうが、入院6日目に戻ろう。
いよいよグロブリン治療も明日でおしまい。
入院生活にも、腕に刺さったままの点滴針にも慣れ、
なんとなくグロプリンのおかげで調子が良い気がしていた。
「ちょっといいかな?」
夕食が配られ出した頃、M先生が顔を見せてくれた。
外来の初診の先生なので、なんだかほっとする。
「色々検査したんだけどね、運動ニューロンの病気なのは確定だと思う。」
「他の病気だと良かったんだけど、どれも異常が全くないんだ。
しいて言えば、大腸の腫瘍マーカーがほんの少し上がっているけれど、
関係ないと思う。」
「……ALSということですか?」
「うん。世界神経学会(WFN)のEL Escorial基準というのがあってね、
ALS確実と言うには、筋心電図で3ヶ所異常が出る必要がある。
確実な神経原生異常は、まだ1ヶ所だった。」
「3ヶ所出るのは、どういう状態ですか?」
「車いすくらいにならないと、出ない。」
「まだ進行が早いか遅いかという可能性はあって、
早いと1年で車椅子…」
「遅ければ…?」
「3年で車椅子かな…。」
「あなたの場合は、飲み込みが心配だね。」
優しいけど、質問にはごまかさずはっきりと答えてくれる。
でも、寿命については、まだ怖くて質問できなかった。
「やりたいことがあるなら、いまのうちにやった方が良いと思う。」
「別の病気の可能性はないですか?運動ニューロン病は、確実なんですか?」
「僕たちも他の病気であって欲しかったのだけれど、
若いから違うかと思っていたのだけれど、
運動ニューロンの病気なのは残念ながら間違いないと思う。」
確かに先生達は、針筋電図の後も、
夕方から病室に入れ替わり立ち替わり、追加で色々な検査をしてくれていた。
先生は顔をしかめて、
まるで先生の方が告知を受けているようにつらそうだった。
私は、病気のことはもうこれ以上聞きたくなくなくて、
ぜんぜん関係のない世間話をしだしたけれど、
M先生は、その後1時間以上もずっと私の話をきいてくれた。
なんども看護師さんが食事を下げに来たけれど、
先生はずっと横にいてくれた。
外来の時とても待ち時間がかかったけれど、
こんな風に患者の話を聞いてくれるからなんだと、思った。
いい先生に出会えて良かった。
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