2014/07/26

1番じゃなければダメな理由がわかる本。

「科学者の楽園」をつくった男-大河内正敏と理化学研究所
(宮田親平著/河出文庫刊)


小保方氏のSTAP細胞騒動を通して、
理化学研究所のユニークな人事体系を知って、
理研についてもっと知りたいと思い手に取った本。

明治維新になってようやく、近代科学の重要性に目覚めた日本は、
有望な研究者をヨーロッパに留学させ、
帰国後、大学教師として研究者を育成させた。

残念ながら、日本に戻り安住してしまう科学者が多い中で、
西洋の活気ある研究現場のような場所を渇望する
池田菊苗、桜井錠二などのような優秀な科学者たちを満足させる場が日本にはなく、
アメリカに移住して数々の研究成果を出していた
高峰譲吉が音頭を取り、ついに「公益法人 理化学研究所」が誕生する。

ところが、高齢だった初代所長が急逝し、
その後の交代劇の末、造兵学者であった大河内正敏が所長に就任。
彼によって、かつてないユニークな研究所が誕生する-。

理系ではない私にとって、
登場する数々の科学者達は初めて知る名前ばかりなのだが、
池田菊苗(味の素のグルタミン酸を発明した)が、
留学中の夏目漱石を訪ねて、漱石の科学への興味を掻き立てるところや、
同じく科学者の寺田寅彦との交流など、
科学者たちの細かいエピソードも楽しい。

応用科学だけを目指していたのでは、日本の技術の進歩は見込めないと、
基礎科学の重要性を謳い続けてきた大河内正敏と理化学研究所。

大きな研究成果は、元々は何の役に立つか分からない研究から生まれることもある。
大河内氏は、「化学者が物理をやっても、物理学者が化学をやってもかまいません。」と、
すべてを科学者の自由に任せた。

「30年に一度業績を上げればよいのだから自由にやりたまえ。」とうそぶく理研の精神は、
逆に科学者たちに何かをやらなければならない良心を起こさせ、
好奇心のおもむくまま、研究にだけ時間を使える環境が、
華々しい研究成果を生み出すのだから面白い。

今の研究所や大学研究員は、資金獲得は学生への補習など、
膨大な雑務に追われてしまい、研究の時間を捻出するのが難しいという。

税金を使うのだから、その研究が何の役に立つのかについて
当然説明責任を負うと思っていたけれど、この本を読んで認識を改めた。
応用を追及する研究は二番煎じになりがちだからだ。

大臣の「1番じゃなければダメなんですか、2番じゃダメなんですか。」という
発言もあったけれど、
やはり1番(初めて)を目指す科学者を育てる余裕がないと、
日本の科学力は上がっていかないのだろう。

今回の小保方氏の理研騒ぎは、
理研ならではの背景があると言っていた人もいたけれど、
ただ、自由と無責任はだいぶ違うかもね。

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