「大学病院のウラは墓場」(幻冬舎新書刊)という医療エッセイが面白かったので、
久坂部氏の経歴を調べていたら、
処女作の「廃用身」という小説が気になり、試しにKindleで購入。
待ち時間にiPhoneでちょっと読もうと思ったところが、
やめることができず、なんと一気に最期まで読み切ってしまった。
医師が自身の治療を回顧してゆく、
さながらノン・フィクションのような文調で物語は始まる-。
「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で動かず回復しない手足をいう。
デイケア施設で、老人の訪問医療にあたる漆原医師は、
心身の不自由な「廃用身」をもつ患者の画期的療法を思いつく。
治療した患者に予想外の良い結果が生まれ、徐々に手術を受ける患者も増えてゆくのだが、
悪意の第3者の告発をきっかけに、マスコミから「悪魔の医師」と糾弾されてゆく-。
切断なんて、一見トンデモナイ治療法なのに、
読み進むうちに、「ありなのでは?」と思わせてしまう説得力を生み出しているのは、
作者の久坂部氏の医師としての経歴だろう。
登場する介護の陰惨な現場や貧困介護の実態もリアルで、
どこまでが虚構なのかと想像すると背筋がぞっとする。
介護には、お金も人手もかかる。
来るべき老人社会での介護問題を解決するためには、
限りあるリソースで間に合わせるしかない。
ひとつの解決方法として漆原医師が提案したのが、
不要な身体の切断という方法だった。
正直後味は悪い。見たくない現実を見せられた気がするからだ。
でも、何を幸せと感じるかは人それぞれなんだということにも気づく。
両手両足を切断してもなお、幸せを感じるという患者もあると。
病気は治さないけれど、生活を取り戻す治療。
麻痺して動かない腕が痛みを伴うとしたら、切断するという「治療」は是か非か。
「ブラックジャックによろしく」でも、がん細胞を殺すためではなく、
現状維持のために抗がん剤を使用するという話があった。治さずにがんに勝つ。
サンデル教授の言うとおり、正義は1つじゃない。
同じ治療が、ある人にとっては正しくて、ある人にとっては正しくない。
続けて、尊厳死を扱った小説「神の手」も読んでみようと思う。
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