2014/12/10

医師のまなざし、ALS患者の物語

「いつかあなたも」(久坂部 羊・著/実業之日本社刊)


現役医師の久坂部羊氏による短編集。
同氏の小説を読むのは、「廃用身」「神の手」に続き、3作目。

医師が書いた小説は、実は意外とあるけれど、
氏の作品は、他の作家が書かないようなリアルな介護の現状を描いたものが多く、
強く印象に残るものが多い。

「神の手」は尊厳死法を通そうとする人々、阻止する人々を描いた作品だ。
政治やマスコミを利用してついに立法される手法も興味深く、
上下巻で非常に読みごたえがあった。
尊厳死法が施行された後の状況なども描いており、現実味がある。

「いつかあなたも」は、6篇からなる短編集で、
在宅医療の患者たちを描いている。

久坂部氏は、実際に在宅医療のクリニックに13年間の勤務経験があり、
あとがきによれば、当時の患者さんがモデルになっているらしい。
看取りがテーマになっているが、必ずしも美談になっていないのは、
実話にもどづいた小説だからなのかもしれない。でもさわやかな読後感がある。

最期の1篇、「セカンド・ベスト」は、ALS患者のエピソードだ。

病態は、少し手が動かせるものの四肢は麻痺しており、鼻マスクを使用。

まだしゃべることができ、夫婦での会話が生きがいなので、
声を失う気管切開は拒否している。

痛みや呼吸苦がつらい状態が長引くのも望んでおらず、
安楽死を希望する患者に新米医師はとまどう。

院長のベテラン医師は、安楽死ではなく、
「セカンド・ベスト」な治療として、セデーションで痛みを取り除くことを提案する。
おかげで夫妻は満足な年末を過ごすことができ、
新米医師は、セカンド・ベストどころか、ファースト・ベストだと喜ぶが、
院長の顔は曇るのだった・・・。


医師の描いた小説では、里見清一の「見送ル: ある臨床医の告白」もお勧め。

医師にとって患者とは大勢の患者うちの一人であり、
臨床によって経験を積み、次の患者に活かしている。
多忙な医師たちは、すべての患者に全力投球はできない。
より助かる可能性のある患者にプライオリティをおく。
そんな医師の日常の心持ちや判断に、
ノンフィクションのようなリアリティがあって興味深かった。

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